短く言い切ろう


「そうだ 京都、行こう。」キャンペーンサイト

「そうだ 京都、行こう。」
という有名なコピーがあります。

誰もが一度は目にした(耳にした)ことのあるコピーでしょう。
ボクも以前からその存在は知っていました。なにせ1993年から続くキャンペーンのコピーです。
少し大きめのJRの駅構内には、必ずと言っていいほど、
「そうだ 京都、行こう。」のポスターが貼られていました(いや、貼られています、今も)。
しかし、コピーを学び、自分がコピーライターを名乗るようになって、
その奥深さに改めて気づかされることになるのでした。

広告主はJR東海(東海旅客鉄道)です。
首都圏や中京圏から京都へ観光客を誘致するのがキャンペーンの目的。
ポスターやCMには、キャッチコピーと合わせて、
美しい桜や紅葉に彩られた京都の神社仏閣の風景がビジュアルとして表現されています。

このコピーのミソは、なんと言っても「そうだ」にあります。
「そうだ」と思いついて、東京や名古屋からでも京都へ旅に出れますよ、
新幹線ならね、というロジックになっているわけです。
物理的な距離を心理的な距離に置き換えて、その距離を一瞬でぐっと縮めていますよね。
しかも、京都の素晴らしさは存分に謳っているのに、新幹線のビジュアルやコピーはほとんどない。
いや、まったくない。JR東海のロゴだけ。ホントに清々しいです。

ところで、「そうだ ○○、行こう。」
という模倣コピーというか、つぶやきがSNS上にあふれていますよね。
模倣ならまだいいのですが、「そうだ 北海道へ行こう。」とか、「そうだ ヨーロッパに行こう。」とか、
「へ」や「に」という格助詞がつくと、オリジナルへのリスペクトが欠けている気がして、
ついついボクは憤慨してしまいます。
そもそも、「そうだ」という思いつきで行ける場所でもないし!
もちろん、ボクが書いたコピーではなく、太田恵美さんの作品なのですが。

「そうだ 京都、行こう。」は、「そうだ」によって世の中に新しい価値観を提案しました。
いいコピーは、物事の本質を鋭くつき、新しい価値観を生み出します。
やがてその新しい価値観が文化として根づいたとき、そのコピーは伝説となります。
ま、神化するのはボクの中だけで、実際にはコピーが日常語に溶け込むわけです。

コピーは原則、短くないといけません。でないと浸透しませんから。
スパッと短く言い切ったコピーで、世の中に新しい価値観を提供したものをいくつかご紹介しましょう。


おせちもいいけどカレーもね

この短いコピーの中で、「正月=おせち」だったところに「+カレー」という新しい暮らし方の価値観を提案しています。ちなみにこれはハウスククレカレーのコピー。昭和51年以降、年末年始の買い置き訴求のCMで、キャンディーズが出演していました。「調理しない」という意味のクックレスからククレカレーのなったのですが、レトルト食品という意味でも世の中に新しい価値観を提供しましたよね。



白いクラウン

「はぁ?」と思いましたか?そう、あのトヨタクラウンのコピーです。白いクラウンなんてそこら中にあふれてるじゃないか。おっしゃる通り。その常識を浸透させたのが、このコピーなのです。昭和42年当時、「高級車は黒、大衆車は白」というイメージがありました。一般のサラリーマンにとってクラウンは、「そんな高級車は買えない、自分には関係ない」という認識でした。「白いクラウン」というコピーには、「あなたにも手が届く高級車がありますよ」というメッセージが込められているわけです。




スーパードライ/一番搾り

今も業界トップクラスの人気を誇る、アサヒのスーパードライと、キリンの一番搾り。実はこれらも新しい価値観の提案でした。ドライ(DRY)はつまり、辛口という意味です。発売当時、日本酒やワインに辛口という概念はありましたが、ビールにはありませんでした。スーパードライは辛口ビールというジャンル、そして「ビールは喉の渇きを潤すものなんだ」という価値観を提供したのです。また、一番搾り。本来ビールはブレンドするものでした。そんな中で一番麦汁だけを使ったビールを売り出したわけです。発売時のキャッチコピーは「うまいことはわかっていた」でした。強気ではありますが、そりゃそうだ、ですよね。
このように、強いコピーは短い。さらに、商品名にもなり得るのです。